徳薙零己の備忘録

徳薙零己の思いついたことのうち、長めのコラムになりそうなことはここで

Google+にむかし書いたこと

経営者はコンサルタントに問い合わせました。
その答えは、やる気の無い社員が不要であり、やる気のある社員のみを残すべきとの指摘でした。

経営者は従業員のやる気を促すことを考えて実践しました。

その企業では、その仕事は今まで2人でしていました。8時間の2倍ですから合計16時間です。

その2人のうちの1人が8時間でかかる仕事を5時間で終えるようになりました。経営者は考えました。5時間でできる人だけを残せば2人分の人件費が、1人分の基本給+残業代だけで済むんじゃないかと。

結果、会社でその仕事ができる人は1人だけになりました。
もう1人はやる気の無い社員と扱われクビになり他の会社に行ったようです。
残った1人は毎日2時間の残業をして2人分の仕事をするようになりました。

残った1人は毎日々々2時間の残業をしました。
1人で2人分の仕事をしています。
いくら1人分の仕事を5時間でできると言っても、本来2人が必要な仕事量を1人でこなしています。

最初は素晴らしいと思っていた周囲の人も、次第に当たり前だと思うようになってきました。
残った人は言いました。「つらいです。人手を増やしてください」と。
企業は「今まで1人でできているじゃないか」と言って無視しました。
残った人はだんだんと意欲を失っていきました。2時間の残業が3時間になり、4時間になりました。

周囲の人は言いました。「どうして終わらないんだ」と。

企業は言いました。「やる気が無いのか」と。

残った人は、2人分の仕事をする人という高評価から、どんなに残業しても自分の仕事を終えることのできない無能な人という低評価になりました。

残った人は追い詰められていきました。

話しかけても虚ろな表情のままです。

受け答えもできません。

仕事のミスも増えてきました。

ミスが多いからという理由で評価はみるみる下がっていきました。

経営者は考えました。
ミスが多く、評価も低い社員を辞めさせるべきだと。
このままでは他の人のモチベーションも下がると。

経営者はその社員を「モンスター社員」として扱い、辞めさせるよう仕向けました。

企業の目論見は成功しました。その人は鬱による退職を選びました。

企業は見落としていました。
会社でその仕事ができる人は1人だけになっていたことを。
それも、本当は2人が必要な仕事を1人でこなしていたことを。

「あれ? あいつがいなくなったら、誰がこの仕事をやるんだ?」と気付いたときにはもう手遅れでした。
誰もその仕事ができません。

その仕事ができる人を探してもダメでした。
「あの会社は2人かかる仕事を1人に押しつける会社だ」という評判ができあがっていました。

その会社で働きたいなんて考える人はいなくなっていました。
他の社員も、「そういえば2人でやってた仕事を1人でやっていたんだ」と思い出しました。
やる気の無い無能な社員ではなく、意欲あふれる優秀な社員だったんだと思い出しました。
優秀な社員をこき使って、最期は無能扱いして追い出した会社です。
次は自分かも知れません。
このままこの会社で働いていて、未来はあるだろうかと考えた社員はどちらかを選ぶようになりました。
ボロボロになって辞めさせられる前に自ら会社を去るか、やる気を見せずに会社に残って日常を惰性で過ごすかのどちらかです。

経営者は言いました。
やる気を見せろと。
社員の耳には届きません。
やる気ある社員はもう辞めたのですから。

経営者の前に突きつけられたのは、次々と社員が減っているという現実、そして、このままでは会社が潰れるという数字です。
売上も、利益も、伸びないどころか目に見えて減り続けています。

どうしてこうなってしまったのか経営者は振り返りました。スタートはコンサルタントからの指摘でした。

「モンスター社員の解雇方法」

と呼ばれるそれを実践してから狂いだしたと気付いたとき、企業に残されていた選択肢は唯一、倒産だけでした。

-完-