平成30年12月9日の天皇杯決勝を振り返ってみて
平成30年12月9日18時、天皇杯 JFA 第98回全日本サッカー選手権大会決勝が埼玉スタジアムで始まった。
すでに各所で取り上げられているが、今回の決勝戦は天皇杯としては異例なことが重なった。
まず、AFCアジアカップ2019が来年1月5日にUAEで始まることは以前から決まっていた。既に第94回大会(平成26(2014)年)が、翌年1月9日に開会されるAFCアジアカップ2015に合わせて、決勝戦の日程を翌年1月1日ではなく12月13日に変更したという実績がある。そのため、決勝戦を翌年1月1日ではなく12月中に開催することはかなり早い段階で決まっていた。
また、通常であれば国立競技場が決勝戦の会場であるが、東京オリンピックにあわせた改築工事で使用できないため、決勝戦の会場を各都道府県のサッカー協会から募っていた。
国立競技場改築工事期間中の決勝戦会場は、過去4大会、各都道府県サッカー協会の推薦をもとに以下の通りと決まっていた。
第94回大会:日産スタジアム(72,327人:神奈川県サッカー協会)
第95回大会:味の素スタジアム(49,970人:東京都サッカー協会)
第96回大会:市立吹田サッカースタジアム(39,694人:大阪府サッカー協会)
第97回大会・埼玉スタジアム(63,700人:埼玉県サッカー協会)
第98回大会は第97回大会に引き続き、埼玉県サッカー協会の推薦した埼玉スタジアム2○○2が決勝戦の会場と決まった。この時点で準決勝の開催は12月16日、決勝戦の開催予定は12月24日であった。
このままであれば問題は無かったのだが、日本サッカー協会は見落としがあった。
アジアチャンピオンズリーグを制覇したクラブが準決勝以上に進出した場合、天皇杯の準決勝と決勝の日程が、FIFAクラブワールドカップの日程(12月12日開幕、12月22日決勝)と重複するのである。
その危惧は、鹿島アントラーズがアジアチャンピオンズリーグを制覇したことで現実なものとなった。鹿島アントラーズが天皇杯準決勝にも進出しているため、天皇杯準決勝を12月5日、天皇杯決勝を12月9日に変更することとなったのである。
ところが、12月9日はさいたま国際マラソンの開催日であった。しかも、マラソンコースには埼玉スタジアムが含まれていた。
この結果、シャトルバスでの埼玉スタジアムへの移動が完全に止まった。埼玉スタジアムでサッカーの試合を開催するとき、通常であれば、JR浦和駅、JR北浦和駅、JR東浦和駅、東武線岩槻駅、東武線北越谷駅から埼玉スタジアムまでのシャトルバスが走っているのだが、その全てがマラソンの影響で運転中止。公共交通機関で埼玉スタジアムに行くには埼玉高速鉄道浦和美園駅に行き、そこから徒歩で埼玉スタジアムに行くしか無くなった。
埼玉高速鉄道の混雑はある程度想像つく話であるが、浦和駅から鉄道だけで浦和美園駅までに行くには、浦和駅から南浦和駅までJR京浜東北線、南浦和駅から東川口駅までJR武蔵野線、東川口駅から浦和美園駅まで埼玉高速鉄道となる。この、JR京浜東北線、JR武蔵野線の両路線も大混雑となった。
天皇杯とJリーグカップ(現在はルヴァンカップ、かつてはナビスコカップ)の決勝戦は中立地開催である。たしかに今回は埼玉スタジアムを本拠地とする浦和レッズが決勝戦に臨んだが、だからといって特別扱いは無い。観客の入場開始は試合開始の三時間前。浦和レッズがJリーグの本拠地として使用するとき、ビジュアルサポートのために入場開始前の準備が認められることもあるが、それはいっさい無い。
たとえば、試合開始前に私が「3Dだよ、おい!」と叫んだこれも、
「3Dだよ、おい!」#urawareds pic.twitter.com/yjRdOIsjJJ
— 徳薙零己 (@rtokunagi) December 9, 2018
入場開始後から試合開始までの3時間で準備を終えたものである。
しかも、機械ではなく携帯電話でタイミングを計った上での人力である。
これ中立地なのに!って声があるけど、ワイヤー通して自動で上げたんじゃなくて紐通して両サイドから人力で引っ張ってたからな。 pic.twitter.com/6Xg0Xyggob
— フジ (@FUJI_CARAT) December 9, 2018
ワイヤーじゃなくてヒモですし
— 優成 (@urawa24_soccer) December 9, 2018
機械じゃなくて人力であげたのですよ
主催者側に協力はもらってないですし
そもそも開催地は対戦カード決まる前から決まってたものですのでそこに関して今更何か言われてもこちら側も困りますよ笑 pic.twitter.com/E2Zg5gejW9
たしかに埼玉スタジアムの構造をサポーターが知り尽くしているというのもあるが、レッズサポーターが何かしらの便宜を図ってもらったというわけではない。
今回の決勝戦の会場が埼玉スタジアムであることに対し、中立地での開催ではないという意見もあるし、理論上が中立地であっても現実は中立地ではなかったという意見もあるが、実際にスタジアムに足を運んだ人は、そこまで浦和レッズが優遇されていたとか特別な配慮が施されていたとかは感じないであろう。
この写真だけではわからないかもしれないが、ベガルタ仙台サポーターからはかなりの迫力とかなりの声量が埼玉スタジアムに届いていた。
🏆#天皇杯 決勝 浦和 vs 仙台🏆
— 天皇杯 JFA 第98回全日本サッカー選手権大会 (@jfa_tennouhai) December 9, 2018
真っ黄色に染まった仙台のゴール裏!
入場前に配られていた「Shine together 今俺達が輝く」と描かれたタオルマフラーを掲げていました!https://t.co/bNiNZ4Jzaf#vegalta pic.twitter.com/tjoCBCjvwI
たしかに場所は埼玉県であったし、試合会場も浦和レッズが普段から使用している埼玉スタジアムであった。ただ、南側ゴール裏はベガルタ仙台サポーターが埋め尽くし、指定席もベガルタ仙台サポーターが数多く詰めかけていた。
私の投稿での映像から想像つくと思うが、私が座った場所は指定席の中でも南側である。天皇杯決勝やJリーグカップ決勝の指定席は、浦和レッズのJリーグやACLでの試合と違い、浦和レッズサポーターもベガルタ仙台サポーターも双方とも購入可能であるとはなっているものの、通例であれば、やはり浦和レッズサポータのほうが多いものである。これまでJリーグカップや天皇杯決勝で同様の席に座ったことがあるが、浦和レッズ側のゴール裏から遠い席であっても、周囲を見渡せば浦和レッズサポーターばかりというのがいつもの光景であった。
ところが、今回の天皇杯決勝はベガルタ仙台サポーターがかなり多かった。はっきり言えばベガルタ仙台サポーターの黄色に囲まれていた。
スタジアムが完全に真っ二つに分かれていて、交通の便で見ても両クラブのサポーターが公平であるというのは中立地開催として最高の条件かもしれないが、現実にそれは難しい。しかし、日曜日のベガルタ仙台サポーターはハンデを背負いながら可能な限り中立地開催に近い雰囲気を作り上げていたし、浦和レッズサポーターはホームをホームとして使用できない制約が課されながら可能な限りホームの雰囲気を作り上げていた。
両クラブのサポーターがそれぞれに課された制約の中で最大限のサポートをした結果は素晴らしいの一言だったと言えるのではなかろうか。