アニメーションの収益構造改善について考えてみる
現在のアニメーション製作環境はきわめて厳しい。アニメーターの給与は低く拘束時間も長い。しかし、それはアニメーション製作会社が暴利をむさぼっているからではない。アニメーション製作会社の収益そのものが少ないからである。
アニメーションを作成することでいかに儲けるか? 全てはこの点に行き着く。
アニメーションそのものにいかにスポンサーを付けるだけでなく、また、アニメーションのDVDやブルーレイを販売するだけでなく、アニメーションにおける新しいビジネスモデルを構築できるならば、現在のアニメーション製作が抱えている問題をいくらかは解消できるのではないかと考える。
アニメーションと3D
マンガ作成ソフトのコミPo!というのを御存知であろうか? 絵を描けなくても漫画を作成できるというコンピュータソフトであるが、このソフトの根幹となるアイデアは以下の通りである。
- キャラクターは3Dモデルである。任意の服装、任意のポーズ、任意の表情を自由に選択できる。モデルの縮小拡大、視点の変更も自由。さらに、一度作成した3Dモデルは再利用可能。
- キャラクターは3Dであるが、背景や持ち物は2Dと3Dの双方が利用可能である。たとえば教室、たとえばオフィスフロア、あるいは屋外のグラウンドといった背景や、キャラクターの持つアイテム、たとえば傘、たとえばスマートフォン、たとえばバッグといったモノを3Dとすることで、背景やモノを思いの通りに設定できるし、2Dでもコマ上の任意の場所に自由に設定できるようになっている。
つまり、キャラクター、モノ、背景を全てコンピュータを用いて作成し、マンガを描くのではなく部品をコンピュータ画面上に配置することで、マンガを描くことができない人や、絵を描くのが苦手であるという人であってもマンガを作成できるようにしているだけでなく、短い作成時間でマンガを作成できるようになっている。
短い作成時間でマンガを作成できるということは、アニメーションを画の連続として捉えた場合、アニメーションを短時間で作成できるようになることを意味する。たとえば下のGIFファイルはコミPo!で30分で作成したものである。使用したのは女性のキャラクター1点、屋上から校庭を眺める背景素材1体の計2点の3Dのみであり、その2つの3Dの視点を変えたり、拡大縮小させたりしただけで以下のGIFファイルができあがる。
これをアニメーション作成に応用することは可能である。
まず、キャラクター、背景、小物を全てコンピュータ上で3Dで作成する。
次に、作画は可能な限り3Dの配置とし、3Dの配置で不可能な部分についてのみ現行の2Dとする。2Dはコンピュータに限る必要は無い。
これにより作画時間が短縮できると同時に、絵画が苦手であるという人でも動画作成に携わることが可能になり、動画作成担当者の雇用の幅が広がる。また、コンピュータ上での作成であるならば、場所は東京である必要はない。ネットがつながる環境であればどこでも可能である。コンピュータ上で画を作成してネットでアニメーション製作会社に送信するという仕組みもできる。
これを延長すると、病気やケガなどの理由で外出が困難である人でも就業可能な職業とすることが可能となる。社会福祉の観点で捉えることも可能となれば国からの補助金も期待できる。
さらに、3Dで作成した素材はアニメーション製作会社が販売できる素材となる。たとえば同人作品や漫画、さらには他のアニメーションにも転用可能という前提でキャラクターや背景素材を販売することで収益を得られることとなる。たとえばキャラクター1人200円、背景素材1つ200円とした場合でも、1000人買えば40万円の収益となる。
また、3Dで作成したキャラクターを3Dフィギュアやプラモデルに加工して販売することも容易になる。作品中に登場するロボット等のメカだけでなく、キャラクターが使用しているのと同じ食器やアクセサリーを3Dプリンタで出力して販売するというビジネスモデルも可能となろう。
転用時に問題となるのは著作権であるが、これは3D素材の取引にブロックチェーン技術を導入することで解決できる。もっとも、ビットコインのブロックチェーンは1MBであるが、を使用しているが、現実問題としてブロックチェーンのファイルサイズの1MBは小さすぎる。もっと大きくすべきであろう。
アニメーションを3Dにするのとは逆のパターンも可能となる。漫画のアニメ化において漫画のキャラクターや背景が3Dで作成されているならば、そのままアニメに転用することが可能となる。漫画とアニメとで顔が違うとか背景が違うとかが無くなる。メディアミックスという観点において、このメリットは大きい。
アニメーションとネット配信
アニメーションのネット配信が増えてくると、アニメーション中にCMを挟み込むことは難しくなるが、その一方でアニメーション関連商品を売る機会は増える。その回に登場したキャラクターの3D素材、あるいは、その回に登場した建物の3D素材をネット配信されたアニメーションからクリック1回で買えるという仕組みも構築できる。
買えるのは3D素材だけではない。アニメーションに登場した食器やアクセサリーの3Dプリンタ出力の販売を前述したが、その現物を販売することも可能だ。通販会社と手を組むことで、作品中に登場した服やアクセサリーの販売サイトに1クリックに飛ぶことも可能となる。アニメーションのキャラクターがプリントされたシャツではなく、キャラクターが着ていたのと同じシャツというのは需要がある。その需要に1クリックで応えることのできるリンクを組み込むことは可能である。
ネット配信となればオープニングソングやエンディングソングのダウンロード販売サイトにつなげることも容易になる。この場合、音楽配信サイトとのスポンサード契約締結が前提となるが、無条件の了承とはならなくともさほど難しい話ではなくなるであろう。
また、ネット配信はこれまでアニメーション製作会社が作成した作品の再公開を容易にさせる。再放送やDVD化ができないでいる作品を広告つきでYoutubeをはじめとする動画配信サイトに載せることは難しい話ではない。もとからしてオープニングと本編開始前、本編中、本編終了後とエンディング、あるいは次週予告までの間にCMが入ることが前提となって作成された作品である。動画の途中にCMが入ったとしても作品に違和感を生じさせることはない。
アニメーションの今後
日本のアニメーションという括りがどこまで存続し続けるか不明である。少なくとも、ジャパニメーションがこれまでのように世界で席巻するような時代は期待できない。ジャパニメーションを見て育った人達が、現在の日本のアニメーション製作の抱えている問題をクリアした状態で作品を作り全世界に向けて公開するであろう。
この時代を迎えたあとでも日本のアニメーション製作会社が生き残るためには、現状を続けるのではなく、時代に即した収益モデルを構築していく必要がある。